第二十九日目

「由紀の傷口を治さなきゃいけない」

真剣な顔で和男君は言いました。

このまま放っておくと由紀ちゃんが死んでしまうからだそうです。

僕はもう地下室へ行きたくない!!

絶対行きたくない!!

和男君の目を見ると…

「うん、そうだね…行こう…・」

とっても弱虫な僕。

地下室は凄い事になってました。

扉を開けた途端、何十匹もの蝿が外に出て行きました。

中にも蝿がいっぱいです。

そして何といっても匂い!!強烈な匂いです!!

生ゴミの様な匂いと酸っぱい匂いが部屋中に充満しています。

やっぱり僕は吐いてしまいました。

うじ虫は更に増えてました。

前は腕と足の傷口にしかいなかったうじ虫ですが顔とかにもいっぱい引っ付いてました。

口のホッチキスの辺りにも何匹もぶら下がっています。

和男君はポケットからライターを取り出し傷口を燃やし始めました。

「な・何をしてるの?」

「腐ってる箇所を燃やすんだよ、じゃないと全身が腐っちまうからな、」

それでホントに直るのか僕にはわかりませんでしたが和男君は物知りなのでそれ以上は何も言いませんでした。

「ぐっ!ぐぐっ!!ぎっぎぎぎぎっ…・ぐふっぅ!!」

ホッチキスで閉じられた口の間から例の犬の唸り声を出してます。

ぶら下がったうじ虫がぱらぱらと落ちてきました。

傷口から黒い煙がぶすぶすと音を立てて出ていました。

傷口の周りにいたうじ虫達は変な汁を出して燃えています。

ぷちゅぷちゅぷちゅっとうじ虫が燃えるたびにこんな音がしてました。

煙が口に入ってきて苦くて堪らないので何回も唾を吐きました。

由紀ちゃんは暴れるというより足をぴくぴく痙攣させてました。

目を見ると白目を向いてます。

口からはごぼごぼと白い泡があふれ出ています。

泡が床にこぼれてその中をうじ虫達が泳いでいました。

僕が吐き出した食べ物の匂い…

傷口の腐った匂い…

傷口が燃える匂い……・

由紀ちゃんのうんこや小便の匂い…・・

飛び回る蝿の音…

うごめくうじ虫の音……

焼き殺されるうじ虫の音……

由紀ちゃんの足が痙攣する音………・

くさいくさいくさいくさいくさいくさいくさい………・・

こわいこわいこわいこわいこわいこわい……・





「おかぁさん…」





この言葉で僕は現実の世界へ戻されました。

由紀ちゃんが言ったみたいです。

「よーし!!治療完了だ!!」

和男君の治療もどうやら終わったようです。

傷口からはすごい煙が出てて真っ黒になってました。

「これで全身が腐るのを止められるぞ!!俺は名医だな!!由紀!感謝しろよ!!」

由紀ちゃんは何も答えません。

白目を向いたまま何も答えてくれません。

さっきまで満足そうだった和男君の表情が変わりました。

せっかく和男君が由紀ちゃんの為に頑張って治療したのに無視されて腹を立てたようです。

和男君はライターの火を由紀ちゃんの顔に近ずけました。

ぶすぶすっとあの嫌な音と匂いがしました。

由紀ちゃんの唇が焼かれてました。

ホッチキスにぶら下がっていたうじ虫達が燃えながらボトボトと下に落ちていきます。

ホッチキスが真っ赤になっています。

それでも由紀ちゃんは何も答えてくれません。

白目を向いたまま何も答えてくれません。

僕らはやっと理解できました。

由紀ちゃんが死んでしまったという事を…・
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