「凄まじい内容ですね…しかし、15歳の少年がこんな凶悪な事を・・15歳ですよ!15歳!」

新垣刑事は吐き出すように言った、嫌悪感を露にした物言いであった。

「ええ・・確かに・・しかし、少年だからこそ思いつく凶悪な犯罪が増えつつあるのもまた事実です。」

部屋を出てきた内海医師は疲れを隠しきれない表情でそう答えた。

マジックミラー越しに見える純の姿はまだあどけなさが残りおおよそ

大人というには幼すぎる印象しか新垣刑事は受けなかった。

「そして・・・典型的な分裂症です」

「分裂症ってゆうのは・・え〜っと別の人格がどうのこうのってやつですよね?」

「ええ、そうです。人それぞれ分裂症になる原因は違うのですが幼少期に受けた精神的・身体的トラウマが

主な原因とされています。彼が話の中で小学三年生の時に初めて

「和男君」にあったと言ってたの覚えてますか?」

「ええ、ええ覚えてます」

「恐らくその時に初めて純君の心に潜む非常に凶暴な人格「和男」が出てきたものと思われます。」

新垣刑事はゴクリと息を飲んだ。和男・・・大人でも想像の及ばない残虐な行為を平然と行える和男。

「し・しかし僕には信じられないですね もう一つの人格だなんて…」

「ええ、おっしゃるのはもっともです。しかし近年ストレス社会と呼ばれる日本において

分裂症は非常に増える傾向にある精神の病なんです。現状から逃げ出したい、

現状を忘れてしまいたい、その様な積み重なった極度のストレスが

まったく別の人格を生み出すのです。」

「例えば嫌な事があった時、映画を観たり音楽を聴いたりして気を紛らわす事があるでしょう?」

確かに覚えはある・・・新垣刑事は思った。一時的なものかもしれないが

その行為によって現状のストレスから解放されようとする悲しい人間の性・・・

「我々、人間は生きている以上少なからずストレスを感じて生きているものです。

しかしそれを解消させる手段も知っています。ですが精神力が弱い者、

あまりにもストレスが大きすぎて対処できない者・・・そのような状況下におかれた者が

「完全なる現実逃避」をする為に新たな人格を作り上げるのです。」

「彼の場合は「和男」のみの人格ですが中には五人・六人の人格が潜んでいるなんていう患者も中にはいます。」

「ごっ!五人・六人!?」

「ええ・・人格のパターンも様々で男性だからといって男性の人格が潜んでいるというわけでは無いんです。

男性の中に女性の人格が潜んでいる場合もありますし中には声まで女性の声になるという事例もあります。

老婆の中に少年の人格が潜んでいる場合もありますし成人男性の中に少女の人格が潜んでいる場合も…」

新垣刑事は想像していた・・自分の体の中にもう一つの人格が潜んでいることを・・

女性や少年、老婆などのまったく自分ではない何者かが潜んでいることを…

同じクラスメート、しかも想いを寄せていた女の子を一ヶ月にも渡って拉致・監禁し

ライターで顔をあぶる事ができる凶悪な人格が潜んでいることを…

「怖いのは別の人格が出ているときに自分で制御できる場合と制御ができない場合があることです。

純君の場合はまったく制御ができない状態になると言えます。」

「制御ができない?」

「ええ・・「和男」が出ているときには純君の意思はあるようで無いのです。

少し表現がややこしいのですが「和男」が出てきている時というのは

純君は自分の意識はあるようで実は総て「和男」にコントロールされているのです。

本当はこの世には存在しない「和男」をよりリアルな存在へとする為に純君は

ある意味利用されているとも言えます。
(前ページへ戻る)
(次ページへ進む)