意識が無い・・・意識が無い状態での犯行・・新垣刑事の胸中に何ともいえない嫌な感覚が拡がった。
「それじゃ先生…今回の事件に関して彼の精神状態は…」
「ええ・・精神失調状態での行動となりますので…恐らく裁判になっても罪には問われないかと・・」
「なんてこった!!!」
新垣刑事は思わず大きな声で叫ばずにはいられなかった。
今回の「女子中学生監禁事件」で容疑者が15歳の少年であるということが判明した時、
新垣刑事の胸の内はやりきれなかった。現在の日本の法律では犯罪者は罰するより更正を第一に考える。
未成年、しかも15歳の少年ともなれば尚更である。
マスコミにもひた隠しにされ被害者の家族でさえ時として真実が闇に葬り去られる場合もある。
そして被害者の家族にとっては最悪の結果・・・加害者は「病気」であるという結果。
病気である以上、治療をしなければならない。
少年である以上、立派に社会復帰できる様、更正させなけらばならない。
それが真実・・・純は病気であったから治療を行うという真実・・・
何が真実なんだ!!犯罪そのものが真実じゃないのか!!
少年だから!大人だから!!そんな事よりも犯した罪の重さこそ最も重要な事ではないのか!!
家族はどうなる!?最愛の一人娘由紀ちゃんをおよそ人間とは思えない悪魔の所業で
殺害され残された家族はどうなる!!!
新垣刑事は「にんげん観察日記」を一通り読んだ後、ヘドが出そうだった。
目の前にいる少年を殴り倒してやりたかった。
いくら別人格の「和男」が計画し実行したとはいえ実際には目の前にいる少年が総て手を下したのだ!!
「くっ…ぐぅうう…」
言葉にならない声を絞り出す新垣刑事を見て
「お気持ちはよくわかります。私も医師としてでは無く一個人の人間としての意見を言わせてもらうと
あなたと同じ気持ちです…・まったく…やりきれない気持ちです・・」
あえて二人はそれ以上言葉を交わさなかった。
交わしても無意味だとわかっていたから…
それが日本という国だから…
交わす言葉が無駄であるということを…それが日本の法律であるとわかっていたから…
二人はただ黙って拳を握り締めていた。